「改正プロバイダ責任制限法」によってSNSやネットで誹謗中傷を受けた被害者が訴えを起こしやすいように手続きが簡素化されます。
匿名の相手を特定するまでの裁判所がらみの変更点と急増している刑事事件となる名誉棄損・偽計業務妨害の事例について紹介します。
尚、このページはネット犯罪(特定・追跡・証拠収集)のページで
解説した内容とアプリ「LifeTips」
内で「悪いニャンコの逃走劇 ネット編」で解説した内容の補足説明になります。
重複箇所については説明しませんので、各コンテンツをご参照ください。
相手を特定する為に開示される情報
請求先はSNS等のサービス運営会社です。
利用している通信会社を特定する為に必要な情報を開示して貰います。
特定対象者が二段階認証を行っていた場合は、SNS運営会社から電話番号やメールアドレスを教えて貰うことが可能な為、解決が早くなります。
これに加え、投稿を行ったSNS等へのログイン時のアクセス情報を開示請求することが可能になりました。
個々の投稿のログは膨大になる為、最初から記録していない、もしくは短期間でデータを削除・上書きする運用体制になっているSNSが多いことが可能になった理由です。
相手を特定する為に開示される個人情報
請求先は携帯電話会社やプロバイダー等の通信会社です。
IPアドレス(グローバルIPアドレス)は1人につき1つが割り当てられるものでは無い為、
ココに問い合わせる為には、上記に記載した3つ基本情報は必ず必要です。
例によって、SNSで中傷被害を受けたネコ美さんが激怒して相手を特定するまでを描くオチの無い3コマ漫画
「訴えてやるわさ」要するに、従来の発信者情報の開示請求はプロセスが2段階以上に解れていて、複数回、裁判所に訴えを出す必要がありましたが、 改正法施行後は、1回の開示請求で手続きが済むようになります。
期間についても短縮され、平均して1年かかっていた発信者情報の開示手続きを数か月で出来るようになります。
手続きが早く行われるようになると、こういった骨折り損のくたびれ儲けな結果も減ります。
上記の手続きの変更は、民事訴訟を対象としていますが、名誉棄損は刑事事件として扱わることもあります。
名誉棄損は当事者同士で争ってくれというスタンスなので警察が動くことは以前はあまり有りませんでしたが、
2020年5月に起きたTV番組のリアリティーショーに出演していたプロレスラーの女性がSNSでの誹謗中傷を理由に自殺したとされる事件以降は
警察のフットワークが軽くなっているので気を引き締める必要があります。
罰金刑は民事の損害賠償請求と比べて安いですが前科が付いてしまいます。
2017年の神奈川県の東名高速道路であおり運転で相手を死亡させた男の勤め先として 5chに実在する建設会社のホームページのアドレスを投稿した男が逮捕されました。
逮捕者はアドレスに「これかな?」という疑問形の文章を添えて投稿していましたが、
福岡地裁小倉支部は投稿が名誉毀損に当たると認定し、罰金30万円の判決を出しています。
この事件では同種の容疑で合計11人が書類送検されています。
2019年の茨城県の常磐自動車道でのあおり運転事件でも無関係な女性が犯人の同乗者と間違われ、 個人情報を投稿された件では、該当の投稿をFACEBOOKに行った豊田市議が民事訴訟を起こされ、110万円の慰謝料を請求されています。
双方、誤った正義感が招いた名誉棄損事件です。
例1
いわゆるバイトテロや客として訪れたコンビニやファミレス内での不衛生な動画の投稿など
例2
「昨日の地震で○△動物園からライオンが逃げ出した。」等の面白半分な投稿など
名誉棄損や偽計業務妨害の成立要件に被害が金銭に換算しやすい点が有ります。
法改正による相手特定手続きの簡略化は匿名で被害を受けた人を救済する為のものであり、 個人が自由に意見を述べる権利が侵害されるわけではありません。
実は民事訴訟の名誉棄損で原告(訴えた側)が勝訴する率は実はあまり高くありません。
特に、「公益性がある」と認められた場合は、原告が被害を受けたと主張していても通りません。
また、訴訟をチラつかせながら、威圧的な態度で脅しをかける企業も存在します。
2020年には、自殺したと報道されている芸能人の他殺説を噂するファンに対して、
「自殺を疑う奴は発信者を特定し訴訟を起こす」なんてトンデモ警告を出した企業も有りました。
訴訟するぞ!と脅しを受けても、委縮し屈する前に、客観的に判断しましょう。
仮に訴えられても、本人訴訟で争う手も有ります。
弁護士を雇うと高いですが、民事訴訟の4割は代理人無しで争っています。
プロの法律屋である弁護士が付いていれば必ず勝てるものでも無く、弁護士が素人相手に負けた裁判も珍しくないです。
スラップ訴訟のような非常識な裁判であれば、尚更、勝算の目は大きくなります。
総務省「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000695577.pdf
プロバイダ責任制限法
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html